2021年11月27日

キツネとタヌキ

11月20付け北海道新聞に掲載された「読者の声」について、ある女性(89歳)の投稿が目を引いた。見出しは「結婚69年 初のラブレター」。入院した93歳の夫を心配して書いた、妻の手紙のことである。夫は5通の手紙を大切にして持ち帰った。高齢夫婦の心温まる心の交流が羨ましい。

去年の夏、私も手術のため入院したが、同じようにコロナ禍で面会禁止だった。だが、お母さんは手紙を一度もくれなかった。記憶をたどれば、知り合ってから56年間、手紙は一回ももらっていない。投稿を読んで寂しい現実を思い知った。

退院してから1年もたってから、トイレにこのような書が貼られた。意外も意外、お母さんも80歳になるのに、やってくれるではないか。今まではタヌキ(私)が一方的に騙し勝ち続けて来たが、キツネとタヌキの騙し合いが始まったのだ。
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「ありがとう、あなたに出逢って、よかったです」と書いてある。何回読んでもホッコリする。お母さんは黙って貼ったが、私も何故か聞かない。それで良いと思うのだ。分からない方が楽しいこともある。

現実は出逢って良かったどころではない。やれ、引き出しが開けっ放し、トイレの電気も点けっ放しとか、細かいことにくどくどと煩い。毎日のように小言を言われ、反駁もできずに腹を立てている。少しは控えてほしいものだ。

それなのに、トイレでオシッコを流してないとか、何回も言われて悔しい。一方、私はお母さんが大きいのを流し忘れても、黙って流すだけ、何事も無かったように水に流す。火の始末と違って、大事に至る可能性が全くないからだ。

お母さんには何を言われても言い返さない。例えば、オシッコを流さないと言われても、貴女だって流さなかったとは決して言わない。グッと堪えている。情けは人の為ならず。

口で言うのは簡単だが、これに慣れるのに十年以上かかった。しかし、慣れてしまえば極めて簡単なことだ。独りよがりでいいから、自信を持つことが肝心だ。そして小言も排出物と一緒に、一気にジャーっと流せばスッキリする。この時背中を押してくれるのが画像にある2枚の書なのだ。キツネの計略かも知れないが、タヌキは黙って受けてたつ。
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 80歳以降

2021年11月20日

念願の立派な病気

80歳を目前にして舌癌に罹り、手術の為入院することになった。初めて癌という世間でも認められる立派な病名を付けてもらって、ある意味で、とても嬉しかった。その喜びは深海竜宮病院に書いたので、ここでは省略する。

自慢するようで恐縮だが、珍しい癌だ。有名人としてはテレビドラマスチュワーデス物語の堀ちえみさんが罹っている。

幼少の頃は健康だった。10歳から元気よく走って新聞を配っていた。その頃は私が配達するのを待っている人がいて、「エライね」とか言ってお菓子をくれて励ましてくれることもあった。そんなことで、配達するのも楽しかった。

それから5年後の春、中学三年になっていた私は、坂を上るのが辛くなり走って配れなくなった。子供の頃、お菓子をくれた人に「新聞が遅い」と叱られた。体調は悪いが、学費は必要なので配達は止められない。今の常識では病院に行くべきだが、その頃、病院に行く人は滅多に居なかった。

働かなければ食ってはいけないが、体調が悪いまま働くのは凄く辛い。何をやっても続かず、8年ばかり職を転々。その結果肉体労働は、どうしても出来ないことが分かった。

何か事務的な仕事はないかと探したが学歴で無理。調べてみると、国家公務員試験だけは、受験資格で学歴を問われないことを知った。つまり、短大卒業程度の中級職も中卒で受けられる。20歳以上28歳未満の年齢制限があるだけだった。

年齢の関係で高卒程度の初級職は無理、27歳まで受けられる中級職を受けることにした。21歳のとき、兄の紹介で「インド通信東京支局」でアルバイトを始めた。実働2時間程度で、6時間は一人で留守番という、楽で暇な仕事だった。誰も居ないから一人で試験勉強ができるのだ。お陰で2年後に航空管制官試験に合格できた。

スポーツを楽しんだり、レジャーも盛んな職場だったが、私の健康状態は相変わらず悪い。仕事が終わったらさっさと寝る。目が覚めたら、本を読んだり、テレビを観たりの休養生活だった。付き合いで飲んだり旅行に行ったりするが、自由時間の全てを休養に当てた。

体調が悪く、息切れがして疲れ安い状態は続いていたので、病院にはよく行って、検査もよくやった。しかし、検査結果はいつも異常なしだ。その度に健康になるという望みは絶たれた。こんな状態が40年以上続き、虚弱体質と諦めた。

2年前は舌が痛くて飯も食えなかった。食える物もあるが塩気があれば痛い。牛乳、生卵、お粥、豆腐等いろいろあるが、塩気がなくては美味しくない。どうか立派な病名が付きますようにと祈った。舌が痛いのに異常なしなら心配だ。舌癌と言われてホッとした。これで痛いのが治る。病名が付くこと、これが快復の第一歩である。
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 人生全般

2021年11月13日

片付け恐怖症

忘れるスピードは若い時が歩く速さとすると、高齢になると飛行機ぐらい速くなる。例えば、用事があって部屋を出る。そして、さて何で出たのかなと考える。これが超高速物忘れ。あるいは、物を何処に入れたか忘れて年がら年中、探し物をするようになる。これは認知型物忘れだろうか?

整理整頓は好きだったが、60代で億劫になり、70代で次第に怖くなってきた。80歳になると、大切な物が行方不明になる。つまり、大事なものは泥棒に盗まれないように、慎重に場所を選んで仕舞い込む。そして分からなくなる。もう、こうなると病気である。だから私は「片付け恐怖症」。

以前は、テレビやラジオも好きな番組を選んで観たり聴いたりしていた。その結果、偏った好みと偏った考えを持つ偏屈な人になってしまった。その反省か、最近は番組名も分からずに流していることも多くなった。

坐っている時はテレビとビデオを楽しみ、寝ている時はラジオを睡眠薬代わりにしている。いずれも番組を選ばず、気ままに流している。自分では源泉掛け流し方式と思っている。しかし、知らずに放送に影響されて洗脳される場合もあるそうだ。落とし穴は何処にあるか分からない。

巣ごもり中は、それなりに日々の暮らしを楽しんでいた。しかし、コロナ緊急事態も解除、世の中は動き出している。身近なところでは、お母さんも買い物、習いもの、友達付き合いに動き出した。

一方、私は巣ごもりも留守番も大好きだ。特に楽しいこと、あるいは生き甲斐になる事もやってはいない。それなのに幸せだ。不安がないからだと思う。私はこの状態を汽車に例え、「幸せ本線」に乗っていると思っている。これに乗っている限り脱線しても直ぐに復旧、幸福になる。

70歳を過ぎた頃から、物を動かすと何処に移したか忘れるようになった。一見、ゴチャゴチャしていても、置いたままなら何とか探し出すことができる。残念ながら、「そのまま置いておく」以上の整理法は、未だに見つかっていない。

テレビでゴミ屋敷のような高齢者の部屋を見ると、いずれ、ああなるのかなと思ってしまう。それでも整理整頓するのは怖い。だが、不安を感じないから幸せである。片付けなければ良い。それでいいのだ!

「その内出てくるだろうと楽しみにしています」
「珍しく楽観的だなぁ」
「私が分からないのだから、泥棒も見つけられませんよ」
「おめでたいねぇ」
「11月ですから、おめでとうには早すぎます」
「長生きするよ」
「もう、しています。81ですからね」
タグ:楽しい我家
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 80歳以降

2021年11月06日

不安なければ幸せ

いきなり、むさ苦しい部屋の画像で申し訳ない。
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この部屋で幸せな余生を送っている。幸福とは不安の無いことである。二人暮らしの住居は80平方メートル余りだが、自由に使える空間はこの部屋だけ。居間、寝室等、その他の部屋は全てお母さんの管理下にある。私には鉛筆一本置く自由もない。それなのに幸せだ。不満はあるけどね

「誰? 洗面所に箸と丼、置いたの!」
「ごめんなさい。急用ができて下げるの忘れました」
「何で洗面所に丼なの!」
「お茶漬け食べていたら、暑くて汗がダラダラ……」
「夏だもん、暑くて当たり前でしょ」
「風が通る一番涼しい場所で食べたかったのです」
「アタシが居なけりゃゴミ屋敷になっちゃうね」

その日は、この夏一番の猛暑だった。それに、箸と丼の置きっぱなしぐらいで目くじら立てないで欲しい。整理整頓は良いことだが、やり過ぎは迷惑だ。居間も整然としていて、雑誌一冊置く余裕さえない。

私は雑然とした自分の部屋が大好きだ。一番のお気に入りはベッドだ。枕元には本、小型オーディオ、ラジオ、そして、鉛筆とメモ帳が置いてある。スマホも寝転んで楽しめる。

装飾品は何もないが、テレビとパソコンがあれば、いろんな画像を見せてくれる。それに窓からの景色は、春夏秋冬時々刻々と変わり、厭きることはない。

幸せ列車に乗っている限り、不幸な事態に遭遇しても直ぐに幸せに戻る。一年前は癌に罹り手術も失敗、一日で2回も手術をして苦しかった。手術後の治療にも不具合があり、三日三晩苦しんだ。しかし、終われば直ちに幸せに戻った。

全ての医療従事者が全力で取り組んでくれた。治る確信があり不安は感じなかった。どんな状態でも不安がなければ、苦しさは一時的。治った途端に幸せに戻ってしまう。

不安は退職して自由になったら消し飛んだ。新聞の見出しに「働く女性自殺3割増」とあった。不安に取りつかれるのは苦しい。一部の人は死を選ぶ。幸福とは不安のないことだ。
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 80歳以降