2022年05月28日
なるようになる
2022年05月21日
カラオケデビュー?
月末になれば再入院、今は自宅療養中、こんな時は昔を思いだす。60代はいろいろな出会いがあって楽しかった。今は書くことだけが楽しみになってしまった。僅かながら読んで下さる方々に感謝。有難うv(^_^ v)
2002年の暮れのことだった。いい年して蝶ネクタイをして舞台に立って歌う羽目になった。平穏な暮らしをしている私にとっては、定年退職後最大の危機。こんな苦労までして「やさしい英会話」にしがみつくのには訳がある。
以前に参加した高齢者向け講座は幾つもあったが、すべて三日以内に止めていた。今度ばかりは1年は続けようと固く誓った、と言うよりも同居人に誓わされたのだ。
そして、クリスマス音楽祭の日がやって来た。意外なことに皆んな楽しそうだ。しかし考えてみれば当たり前、嫌な人は来ないのだから。どうやら受講生の義務と感じていたのは私だけらしい。好きな人だけで歌えば済むことだった。友達がいないからこんなことも知らなかった。とは言え収穫はあった。それは自分の殻を破ったことである。
音楽祭には、4年で4回参加した。「英会話」といっても年末の音楽祭に備えて半分くらいは歌の練習だ。ただ歌うだけで特別な指導があるわけでない。だから4年間も続けられたのだと思う。隣でAさんが、きれいな声で歌っているのが聞こえる。小さな声で合わせたつもりで歌ってみると、なかなか気分がいい。こんなことを4年間も続けてきた。
ある日、Aさんがカラオケに誘ってくれた。長い付き合いなので、下手もオンチも承知のはずだ。その上でのお誘いなので喜んで応じた。一年たっても上達はしないが、充分楽しめた。上手いも下手も、パチパチもない。ひたすら順番がきたら歌うだけだが、これがなかなかいいのだ。お喋りに夢中で私の歌など誰も聞いてない。すべてが自然だ。自分達がやりたい様にしていたら、楽しいカラオケ会になってしまった。
「そろそろカラオケデビューしたいのですが…」
「そお」
「有料で行きたいと思っているのですが…」
「当たり前でしょ」
「こんなメニューでいかがでしょうか?」
「なになに? ハトポッポ10円、青い山脈100円、二人の世界1000円、何よこれ? 意味わからない」
「私への歌代です。賛成してくれたでしょ」
2022年05月14日
お金とお足
私は井の中の蛙。在職中は皆、同じ様な給料をもらい同じ様な暮らしをしていた。定年退職して1年たったら家庭の事情で老人福祉センターの無料講座を受けることになった。当然、貧乏な老人が市の援助で勉強させてもらっていると思っていた。ところが、これが大間違い。
「このコート10年も着ているんだけど、15万もしたかと思うとなかなか捨てられないね」とAさんは何気なく言う。えっ、そんなに高いのとビックリした。それなのに、「今日は土曜日なので高いのよ。一人380円だって」とボヤいている。このギャップは何処から来るのだろうか? 因みに私のアノラックはベトナム製で7800円だが、カラオケで380円は安いと思っていた。
15万のコートをハンガーから外して触ってみた。手触りが良くて気持いい。手にとって見るとふわりと軽い。いい臭いがした。こんな高級なコートに触ったのは初めてだ。在職中、私の周りで着ている人など居なかった。住む世界が違う様な気がする。退職して初めて知る別世界体験だ。元公務員の私は老人福祉センターでは中流と思っていた。全く私は世間知らず。井の中の蛙とつくづく思った。
「いつまでも触ってないで、さっさと、曲選んで、あんたが先よ。一番若いんだから」。そうなのだ。ここでは私が一番若い。こうして、月1回のカラオケは始まった。始まったら最後、3人で3時間休み無しの3交替。お喋りは騒音の中で残った二人が大声でする。終わった頃には、もうガラガラのへとへとだ。3人は福祉センター、無料講座の仲間だった。皆んなで一緒に歌ったこともあるので音痴なのは知られていた。それなのに誘ってくれるのが嬉しかった。
カラオケも終わって料金の精算となった。「今日は土曜日だから、高いんだって。一人380円よ!もう土曜に来るのは止そうね」とAさんは言った。15万円のコートと、このしみったれた発言のギャップが、私には面白かった。長い間働いていた以前の職場では、絶対にあり得ない。何もかも明け透けなのも心地よかった。
30%割引、飲み物無料券、シニア割引等、ありとあらゆる割引を駆使しているので、安いときは150円のこともあった。何でもご主人が社長なので法人カードが使えるらしい。バブルのころは薄野をほぼ独占していた法人だが、運良く私も残り滓の恩恵を受けた。
帰りがけのロビーで、ふとAさんの足元を見ると洒落た靴が目に入った。「いい靴ですね」と言った。一見、普通の運動靴の様に見えるが洒落ていて高級感があった。
「分かる? 足を怪我したとき、姉が見舞いに100万くれたから、25万で買っちゃった」
「そうですか。世界中の山歩きをした健脚へのお礼ですね」
「違うわ。痛みに耐えた自分にご褒美よ!」
世界中の山歩きをしていたAさんは、皮肉なことに藻岩山を下山の時、足を折って入院した。彼女はキリマンジェロを登頂、エベレストやK2ではトレッキングの経験もある。体力はもちろん、お金もかかる。必要な時は使うが無駄遣いは苦痛のようだ。
Aさんは老人福祉センターで2階の教室に行くにもエレベーターを使う。山でもないのに歩くのは、体力が勿体無いと言っていた。金も足も無駄には使わない。そう言えば東京で表具師をしていた養父はお金を「お足」と言っていた。この二つには共通なものがあるのかも知れない。