「私たちの将来について大切な話があります」
「は〜い!」
「そんな大きな声を出さなくても聞こえます」
「洗濯機に返事したんだよ」
「私の話と洗濯機の自動音声とどちらが大切ですか」
「洗濯機に決まってるでしょ」
なるほど、言いたいことは分かる。洗濯機は毎日働いているのに私は何もしないで、汚れ物を出して食べて寝るだけだ。それではいけない。遅まきながら変わることを決意した。洗濯機や炊飯器にも負けない役立つ人間になるのだ。決心はしたものの私に何が出来るだろうか。不器用で体力もない、しかも病み上がりである。
お母さんは毎日3度の食事を用意して、洗濯に掃除、病弱の私に合わせて巣ごもりまでしてくれている。今までの様に威張らせてあげて、言うことを聞くだけでは足りない。私も役に立つ人にならなければいけない。出来ることとは何か? 一生懸命考えたら直ぐ分かった。食事の支度である。
「私も食事の支度を手伝いたいと思います」
「狭い台所に二人もいたら邪魔だからいいよ」
「私が一人で作りますから、テレビでも見ててください」
「絶対に嫌! 何を食わされるか分りゃしない」
そう言えば、退職直後、一週間交代で食事の支度をすることにした。一週間どころか、三日で止めさせられた。
「あの頃は嫌々やっていました。反省しています」
「あれで懲り懲りだよ」
「今度こそ心を入れ替えて… 」
「からだ丸ごと入れ替えなけりゃダメ!」
それでも、お母さんのために役に立ちたいとの思いは変わらない。そして、ペットになることにした。以前、猫を飼うことを提案したことがある。そしたら動物を飼うのはアンタ一人でたくさんだと断られた。ならば私がペットになろう。お母さんには癒しが必要だ。本当は素晴らしく気立がいい人なのにギスギスしている。
私がペットになる以上、ご主人様に忠実なだけではいけない。犬猫並みでは人としての誇りが許さないのだ。人間にしかできないことでご主人様のお役に立ちたいのである。家事が苦手な点では本物のペットも私も同じだ。一生懸命考えたら私には一つだけ彼らより優れた点がある。それは言葉、私が日本語を話せることである。
1日にご主人様を3回は言葉で笑わせる優れたペットになりたい。極めて難しい課題だが犬猫ペットに差をつけるとすると、これしか無い。それに私は言葉遊びが大好きだ。といっても得意ではない。しかし、好きなことをやり続けることは健康に良い。これだけは確かだ。
ところで、私の言葉遊びも一区切り。そう思うとトイレに行きたくなった。便座の蓋を開けてビックリ! 出された物が鎮座していたのだ。レバーを押して一挙に解決。今日は大晦日、気持よく水に流そう。来年も楽しく静かに暮らしたい。
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