2017年08月12日

料理の材料

食材とは料理の材料となる食品だが、ときには意外なものも食材となる。中学一年の頃だが闇屋と間違われて警察に捕まった。歩く姿が堂に入ってたので腕利きの闇屋と間違えられたのだ。渋谷駅を降りて宮益坂を上がり切った所に交番があった。警官は身体の二倍もある大きなリュックを軽々と背負って坂を上る姿を見て疑ったらしい。「中身は何だ?」といきなり聞かれ狼狽えた。この態度が警官の疑いを更に深めた。

リュックの中身を知られたら大変だ。母が一番知られたくない物が詰まっていたからだ。私は警官よりも、怒ると火箸を投げつける母の方が怖い。見栄っ張りだから、貧乏で食えないことをひた隠しにしていた。中身を知られれば怒りは私に向かって爆発するだろう。

品川駅に集まってくる客車の清掃を手伝うと、親方が食べられる物を持ち帰ることを見逃してくれる。操車場には数えきれないほどの客車が全国から入ってくる。膨大なゴミの中には僅かながら食えるものもある。その中から弁当箱を見つけて、ある程度の重さがあればリュックに詰める。ゴミ山は食料の宝庫だ。一家6人が食べるには十分な量を集められる。

「素直に話さないから悪いんだよ」と警官は言った。
「捕まったことは家に言わないでください」
「事情を聞いただけだよ」
「母には絶対に言わないでください」
「誰にも何も言わないから心配するな」

警官は私の年恰好とリュックの中身で全ての事情を飲み込んだ。リュックは大きいが中身は食べ残しが入ったスカスカの弁当箱だ。これが家族6人の夕食に化ける。蒸かして食べるのだが経木で出来た弁当箱は好く燃える。食材と燃料が一挙に手に入るのだから有難い。餓死者がいる一方で弁当を残す人がいる。この格差を埋める作業に意義を感じていた。何処から持ってこようと食品は料理の材料である。徹底的に困れば知恵が出る。

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posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 中学時代
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