中学時代に同級生だったユガワ君は学校で一番の秀才で後に東大に入った。彼は学校の勉強を全くしていないようにみえた。ユガワ君の家に遊びに行っても本棚には教科書とか参考書の類を見かけない。目立つのは「無線と実験」とか「ラジオ技術」などの無線関係の本、それに落語全集と言うありさまだ。
ユカワ君は落語が得意で自習時間によく話してくれた。頭がいいから尊敬されているし落語で笑わしてくれるので人気もあった。それなのに何故か孤独な感じがする。私も一対一では近寄りがたいので遊びに行くときはいつも三人一緒だ。メンバーはコメヤ(米屋の息子)、オパーリン(唐辛子屋の息子)、そして私である。
ユカワ君は1級アマチュア無線技士の資格を持っていた。当時の中学生が取得できる最高の資格だ。無線通信は最先端の技術でユガワ君の部屋は科学の匂いがプンプンしていた。アマチュア無線をやっているコメヤに連れられて行ったのだ。
部屋にはラジオとか送受信機や、その部品などでいっぱいだ。アチコチに噛んだガムを張り付けていた。「これはなに?」と聞くと絶縁に使うと言っていた。噛んで捨てるだけのガムが再利用されている。さすがに天才はやることが違うと感心した。
4人の共通点は学校の勉強をしないことだった。ユカワ君はしなくても学校一の秀才だ。オパーリンは、背伸びして『生命の起源』の勉強を熱心にしていた。コメヤは遊んでいても私立の高校に行ける身分だ。私は高校には行かないので勉強する必要がない。実験と称して理科室に入りびたって遊んでいた。今では考えられないが、ちょっと危ない化学の実験などを自由にさせてくれるのだ。
不思議なことにオパーリンの家に行ってもコメヤに行っても家族に会ったことがない。ユガワ君の家では優しそうなお母さんが紅茶とお菓子を持ってきてくれる。私が行く中で唯一の家庭を感じる家だった。我が家は6人家族で6畳一間のあばら家だから友達など呼べない。とりとめのないことを書いてしまったが、私にとっては唯一の楽しい思い出なので、ぜひ記憶に残してして置きたかった。
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