2022年12月10日

流れた歓迎カラオケ

水に恵まれた札幌で、まさかの断水。カラオケ店員はマニュアルに書いていない事態に遭遇して右往左往していた。準備中と言ったまま1時間も待たされた。

「一体どうなっているの、開店時間はとっくに過ぎてるよ」
「断水ですから飲み物料理などの提供はできません。トイレも使えません。カラオケだけはできます」
「そうゆうことは、もっと早く言ってよ」とAさん。

「腹減ったから近くのラーメン屋にでも行こうか」と、仲間4人で相談していると、
「この辺一帯、全部断水です」と店員の声。
「それも早く言ってよ〜。聞かなきゃ何も教えてくれないの!」と思わず切れてしまった。

飲食はともかく、トイレが使えないのは致命的だ。みんなそろってAさんのお宅にお邪魔をすることにした。飲んだり食べりしながらAさんは何時もの様に面白い話をいっぱいしてくれた。特にベンガル虎に会いに行こう!という探索ツアーの話が、聞いていて痛快だった。話に夢中になって、気が付けばご主人がいない。

「アレッ、ご主人様が見えませんが、どちらへ?」
「趣味やってんのよ。見たい?」
「何ですか?」
「煙がもうもうよ」
「見たい見たい」3人そろって見たいを連発した。 

Aさんはご主人と連絡をとりに行った。どんなことをやっているのだろう。私たちは期待に胸を膨らませた。
「煙がもうもうだって、ワクワクするね」
「マジックかもしれないよ」
「ダンナさん、口から火を吹いたりしてね」
「だから、煙でもうもうなんだよ」

案内されて2階に上がるや否や、煙の正体を知ってガッカリした。そこにはタバコをくわえ熱心に仏像を組み立てるご主人の姿があった。灰皿の上には吸殻がいっぱいで、それを完全に消してないせいか煙を立てていた。

傍には「五重塔の70分の1スケール銘木製模型キット」や、陽明門等の完成作品が置いてある。部屋の中には置き切れず、作品の置いてある別の部屋にも案内された。この家には部屋が10以上もある。しかも住人は二人だけ。作品は立派だし、ご主人のスキルもたいしたものだ。しかし、それ以上に重要な役目を果たしているのは大きな家である。 

狭いマンション住まいの私には思いもよらない趣味だ。人間は環境によって行動が左右される。私も大きな家に住んでいたら、別な人生を歩んでいたかもしれない。

「断水も終わったようだから、そろそろカラオケに行かない?」とCさんが言った。
「せっかくだから、ここでゆっくりして行ってよ」
と言いながらAさんはワインを持って来た。
「地下鉄駅近くに来たのに、戻るのはねぇ」
とワインをチラリと見ながら私。
「もう充分歓迎されたから結構よ」とBさん。

アッ!そうだ。今日は東京から3か月ぶりに帰って来たBさんの「歓迎カラオケパーテー」だった。どうやら皆さん思い出したようだ。
「歓迎カラオケ、流れちゃったね」
「断水なのに?」

touhoukouraku.jpeg
懐かしの画像、昔通った映画館は今ではカラオケ。
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | 自由時代(61-74歳)
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