2023年12月09日

ズルい夫−2

こんな事態を予想もしなかったと言えば嘘になる。密かに策を練っていたのだ。あって欲しくないことに対しては準備に怠りない。A子に対しては長年にわたり内偵を続けて来た。こうすれば、ああ出る。分からないことなど何もない。

一方、A子は私のことなど何も知らない。人の言うことは何も聞かず、一方的に言いたい放題だからこうなるのだ。漸く机上で考えていたことを実際に応用する時が来た。かねて用意していた対応策をA子にぶつけた。

「賛成です。食事の用意は2週間交替でやりましょう」
何も知らないA子はニッコリ笑って「お願いね」と言った。
「実は私からもお願いがあるのです」
「何でも教えて上げるから心配ないよ」
「教えてくれなくて結構です。テレビでも観ながら ごゆるりとお待ちください。一人で自由に作るのが大好きです」
「そぉ、好きなようにやりなさい」
「一生懸命作りますから、残さず食べてくださいね」
「もちろんよ〜。上げ膳据え膳なんだから」
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善は急げだ。さっそく夕飯の用意をした。A子はテーブルを見た途端… 、「何よこれ!」
「夕食です。お行儀悪いですね。食べるときは『いただきます』と言ってください」
「豆腐、丸ごと出して、どうやって食べるのよ!」
「柔らかいから箸でいいでしょう。ネギもありますよ。唐辛子をかけるとビリッとして美味しくなります」
「ネギ、丸ごとじゃない」
「鋏を用意しました。必要な分だけ切って食べてください」

私は先のことを考え過ぎるのかも知れない。料理を作っているときに、早くも後片付けのことを考えてしまう。オカズを豆腐にしたのは食器が水洗いですむからだ。ネギをを丸ごと出すのは まな板を汚さないため。

それに、必要な分だけ食べて残りはそのままとって置くこともできる。なかなか名案ではないか。材料と水とエネルギーの倹約にもなる。今流に言えばエコである。 

朝食の支度をしていると背後に人の気配を感じた。振り向くとA子が立っていた。
「味噌汁作るところなんですよ。自由にやらせてください」
「それ、味噌汁の鍋じゃないよ」
「そんなことまで決められたら何もできません。分かりました、何でも言うとおりにしますから言って下さい。さあ、ご指示ください!」

こうなったら、「頭」の丸投げだ。何もかも言う通りにする「手足」に徹することにした。出来損ないのロボットみたいにね。一応、怒ったようなフリをしているが、ここまでの展開は、私の描いたシナリオどおりに進んでいる。

「じゃあ、味噌汁の鍋だして」
「どこにあるのですか?」
「そこよ。ダシもいるでしょ」
「どこにあるのですか?」

こうして延々と「どこにある?」「どうするの?」が続く。A子は根気よく次から次へと指示を出した。私は言われたままにしているだけだ。

30分もするとA子は音を上げた。このゲームはやる前から勝敗は決まっている。A子は言われたことしかやらない部下が、いかに面倒くさい存在か知らない。いよいよ最終段階だ。ここで手を抜いてはいけない。最後の詰めである。

「あんた、ホントに役立たずね」
「でも、頑張ります」
「私の方が疲れちゃうよ」
「頑張って下さい。まだ始まったばかりです。二人の幸せのためです。私も全力を尽くします!」
「もういいわ。私がやるから」
「それはいけません。2週間交替と決めたばかりでしょ」

最後まで「やる気」を見せたが、食事当番は1食半でおしまいとなった。A子がやりたいというものを、無理に止めることはできない。

私たちは80代の老人だ。支援・介護が必要になる日は近い。その為に老人ホームを探している。ここは良いなと思ったホームを見学し、費用を聞いた。二人で年間500万円かかるそうだ。我が家の収入では足りそうもない。世の中はお金持ちが多いものだと思った。それなのに、ホームの入居者はお金持ちには見えなかった。(^-^;) ゴメン
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2023年12月02日

ズルい夫-1

テーブルの上に読みかけの女性向け雑誌が伏せてあったので何となく手に取った。大見出しに「今から夫をイイ男に変える方法」とあるのが目に入った。確かに退職して家でゴロゴロしている私は目障りに違いない。しかし、一体私をどう変えるというのだろうか。

家でゴロゴロは長年の夢、小学4年から金を得るためアルバイト、中卒で迷わず就職、職を転々、23歳でやっと安定した職に就いた。ノロマで口の重い私には向かない仕事だったが、辞めたら食えなくなるのを恐れ定年まで頑張った。

雑誌には服装編、台所編、寝室編にわけて、夫を変える方法をユーモラスに書いてあった。変えられてたまるかと思いながら読んでみた。先ず服装だがA子が買ったものを着ているだけだ。変えてもらって結構。面白いかもしれない。

寝室は定年になる10年以上前から別々だから関係ない。何日間か下痢が続き、夜中に10回以上トイレに行く羽目になった。1階にあるトイレと2階の寝室への往復が苦痛になり1階に寝場所を変えた。そして、下痢が治っても別々に寝る習慣は残ってしまった。

問題は「台所」である。「心に火をつけ家事の達人に変える」と書いてある。家事は嫌いだ。A子は小さいときの夢は「お嫁さん」と言っていたじゃあないか。願いが叶ったのだから、わき目を振らずに最後までやり遂げてほしい。

絶対服従の私だが危機が迫ってくれば話は別である。さっそく対策を練った。ひらめいた格言は、「攻撃は最大の防御なり」。不本意ながら攻撃を仕掛けることにした。さもないと、楽しい生活は瞬く間に破壊される。

「あなたは都合のいいように私を変えてきましたね。雑誌にやり方が書いてありましたよ。これが証拠です!」
「何言ってんのよアンタ! 今だって家ではゴロゴロ、何も変わってないよ」
「最近ケンカをしないでしょう。あなたが私をイイ男に変えたからです」
「イイ男? 冗談じゃない、怠け者のジジイだよ。退職して7年もなるのにゴハンの支度もしたことない

なんだか旗色が悪くなってきた。やはり慣れない事はしない方がいい。A子の方がケンカ上手で攻撃のツボを心得ている。悔しいけど負けたかも知れない。

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北国市桜ヶ丘(仮名)に1986年から35年住んだ家。
「食事当番しましたよ。桜ヶ丘で…」と、精一杯の抵抗。退職当時は北国市郊外の桜ヶ丘の一戸建てに住んでいた。その頃のことだが、「ご飯の支度、交替でしない?」と言われ、突然の提案にビックリした。家でゴロゴロして3か月たっていた。仕事から解放されホッとしていた。退職後に遭遇した初めて且つ最大の危機? 次号に続く。

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2023年10月07日

不貞寝で仕返し

又、A君がやって来た。退職したばかりの人はよっぽど暇なんだな。私のように無職を7年もやっていると、けっこう忙しいものだ。何かにつけ頼まれごとが多くなってくる。ボランティアといっても約束した以上は守らないと不真面目と思われ嫌われる。おろそかには出来ないのだ。

「ハワイに行ってたんだってねぇ。お土産は?」
「ありません。今日は女房の悪口を言いに来たのです」
「そんなこと言いに、わざわざ来たのかい」
「愚痴ぐらい聞いてやると言ったでしょう」

確かに言ったかも知れない。しかし、バスと地下鉄乗り継いで愚痴を言いに来るなんて、夢にも思わなかった。ともかく話を聞くことにした。

A君は風が強くて寒い日に買物を頼まれたそうだ。鉛筆でなぐり書きしたメモを渡された。いつものように、メモ書きは見ないで財布と一緒にポケットに入れた。

そして、スーパーに着く。メモ書きの中に「かにもどき」と書いてあった。店中探しても見当たらない。手がかりを考えると、サラダに使うと言っていたことを思い出した。

ついに見つけた。「かに風味」だ。サラダに合うと表示してあるから間違いない。迷わずカゴに入れた。

それからA君はリンゴ、牛乳、ジュース、醤油など重いものをいっぱい持って、雨混じりの強風の中を歩き、やっと家に着いたと言う。

「遅かったじゃない。寄り道でもしてたの」と言いながら奥さんが受け取ったそうだ。買物を頼まれるのは天気が悪いときか、重いものを買うときに決まっている。今日は両方重なって辛かったとボヤいていた。 

A君の愚痴は更に続く、案の定「かに風味」を見ると嫌な顔をされた。こういう予想は当たれば当たるほど傷つくものだ。「これ違うじゃない」と言われて更にガックリくる。

A君の愚痴は長く、まるで線路の様に何処までも続くのだ。品名は正確に書いてくれないと分からない、と精一杯の抵抗をした。しかし、「私だったら分かるよ」と一蹴された。ホントに悔しくてしょうがない。と涙ながらに訴え長い愚痴は終わった。私の役目もやっと終わりホッとした。

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「悔しかったら仕返しすればいいだろう」
「復讐? 暴力なんてダメですよ」
「重いもの持って雨の中を歩いて帰って来たんだろう」
「そうですが?」
「そのまま倒れ込んで三日ぐらい寝込んでしまえ。そしたら奥さんも反省するよ。無職の強みを発揮するんだ」
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2023年09月30日

逃げるが勝ち

テレビ、ラジオの人生相談を聞いていて、歯がゆく思いウェブ人生相談始めたが辞めた。企画自体は間違っていないと思うが相談がない以上続けられない。

「けっきょく、家来になることにしました」
と、職場の後輩で定年退職したばかりのA君は言った。
「家来って、何?」
「いやですねえ。二人暮らしはどちらかが家来になるしかない、と言ったでしょう!」
「人生相談ね。アレは辞めたんだよ」
「じゃあ無駄話にしましょ。ドッチにしろ同じですから」
「家来と言うと、君は奥さんを殿様に押し上げたのだな。それは賢い、相談の成果だね」
「人の考えを理解する能力がないのだから説得は不可能です。毎日ケンカも楽じゃないから家来になりました。言うことを聞くことに決めたらスッキリしましたよ」
「奥さんは優しいから100%言うこと聞いても大丈夫。ヘトヘトになって潰される心配は全くない。俺が保証する」

二人で暮らしていると客観的にみる人がいない。どちらかが相手に尽くすか、我慢しないと毎日が喧嘩になる。男でも女でも惚れられて結婚して、尽くされるのが一番幸せだが、そんな人滅多に居ない。ほとんどの人は何となく一緒になったのだから、尽くしも尽くされもしない。後ろ向きの意味でイコール・パートナーである。 

相手がガマンしてくれない以上、自分がガマンしなければならない。しかし、一方的な我慢はストレスがたまる。ストレスがたまっては楽しい生活ができない。これでは何の為にガマンしているか分からない。自分なりのストレス解消法が必要だ。A君の為に二人暮らしの極意を考えてみた。

1.奥さんの外出時は家にいて自由に過ごす。
2.奥さんが居るときは外出か自室に籠る。
3.奥さんの言う事には反対しない。
4.お早う、お休み、頂きます、ご馳走様、有難うを励行。
5.話をよく聞き、機嫌よく働ける環境を整える。

要は安全間隔を取ること。車間距離の様なものだ。これさえ守れば事故はゼロ。そして、潤滑油の役目を果たす挨拶は欠かせない。家庭も車と同じ様に走っている。安全間隔をとり潤滑油を注入しないと滑らかには走れない。意見が対立した時はブレーキを踏む。考えて置くと言えば良いのだ。

もう相談には乗れないから、この極意を印刷してA君にプレゼントした。これを読んで、常に沈没の恐れがある夫婦舟を巧みに操り、余生を楽しんで欲しい。

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「なんですか、これ?」
「楽しい暮らしを支える。ストレス解消の極意だよ」
「逃げ回っているだけでしょ」
「逃げるが勝ちというではないか」

画像は2015年6月6日、中島公園豊平館前の池で撮影。オシドリ親子とマガモ親子が遭遇すると突然にオシドリ母がマガモ母を追い払う行動に出た。逃げ回るマガモ母と追いかけるオシドリ母。そぞぞれの子等は静かに母の帰りを待つ。
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2023年09月23日

君は奥さんの誇り

A君は7歳下の定年男性だが職場の後輩だ。又々相談にやって来た。私がヒマそうだから来てくれるのか、本当に相談事があるのかよく分からない。

「無理して相談に来なくてもいいんだよ。会うのも久しぶりだから思い出話でもしようか」
「そうですねぇ。先輩にはよく足を引っ張られました。Q空港上空での一件、あれはヤバかったですよ。あの時……」
「それはそれとして、今日は何の相談だい」
「思い出話はいいんですか?」
「遠くから来たのだから、相談にのってあげないとね」

A君は悩みを語り出す。
「退職したら自由、家でも自由と思ったら大間違いでした」
「そりゃそうだ。家では奥さんが社長、君は新入社員だ」
「何ですか、それ?」
「これからの君の仕事は奥さんの機嫌を取ることだ」
「先輩の真似はできませんよ。バカバカしい」
「私は成功して左うちわだよ」
「嘘でしょ。尻に敷かれている様にしか見えませんよ」
「君は奥さんにとって埃なんだ」
「誇り? そこまで想ってくれなくても。でも感激だなぁ。相談に来てよかった。ありがとうございます」

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A君は職場でも厄介な存在だった。家でも、重たい家具の裏側にこびりついた埃の様に、奥さんも対応に困っていたと思う。でもこれでA君の態度もガラリと変わるだろう。瓢箪から駒が出た。これにて一件落着。まるで自分が遠山の金さんになった様な気分になってしまった。間違っても誤解されても解決は解決である。そうだよね、イズネッ?
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2023年09月16日

傷だらけの人生… 相談

シニアになったら人生相談、これが私が抱いていた長年の夢である。パソコンがネットに繋がると、さっそく「メル友コーナー」に登録。「人生相談承ります」と掲示板に書き込んだ。さて、忙しくなるぞと、待ち構えたが一週間たっても一通のメールも来ない。

変だな〜、故障かな? と思って、5人の同年輩の見知らぬ男性にテストメールを送った。3人の親切な男性から返信があった。内容はみな同じようなものだ。「メル友に登録したらメールが来ると思ったら大間違いですよ」。

苦節6年、ようやく相談者が現れたが、退職したばかりの職場の後輩A君だ。「別れたい」と相談に来たA君の問題を見事に解決。好調なスタートを切った。

それでもA君は相談に来た。ヒマを持て余している私を慰めに来ているつもりかも知れない。そう思えるほど相談内容がくだらないのだ。頻繁なメールのやりとりだが、整理して簡単な会話体にすると次のような感じだ。 

「いつも飲んでいる薬の置き場所を居間から台所に変えようとしたら、女房がエライ剣幕で文句を言うんです」
「そんなこと、いちいち言いに来ないでよ。これでも結構忙しいんだから」
「相談がぜんぜん無いと、こぼしていたじゃあないですか」
「ボチボチというところかな」

「私が建てた家なのに、少しでも便利に使おうとすると大騒ぎになるんです」
「そりゃあ、大変だね〜」
「完全に女房に占領されたのです。私の家がですよ!」
「名義だけだろ、俺だってそうだ。ともかく時効だね」
「はぁ?」
「長い間、家のことは奥さんに任せきりだったろう」
「それが何か…」
「時効とはね、一定の期間、その権利を行使しないと、その権利が消滅してしまうというものなんだよ。諦めな」

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私が人生相談を始めたのには、ちゃんとした訳がある。テレビやラジオで聴く人生相談の回答があまりにもお粗末だからである。回答者はマスコミの寵児、いわゆる人気者だ。常に羨望あるいは尊敬の眼差しで見られている。

一方、相談者と言えばヨボヨボでクタクタな哀れな人たちだ。彼らはいつも人々から無視され、冷たい視線に晒されている。同じことをしても周りの反応は全く違う。例えば「人の輪に入る」こと。人気者の回答者にとって極めて簡単なことだが、嫌われ者の相談者にとっては至難の技である。

回答者は「人の輪に入れば道が開ける」と簡単に言うけれど、陰気でヨボヨボの相談者は、なかなか仲間に入れてもらえない。そこに入らなければ道が開けないとするならば、前途は絶望のみである。何が人生相談だ!

「そういう訳で苦労人の私が人生相談に乗り出したのです」
「それなら相談が一つあるよ」と年上のBさん。
「どうぞ」
「寝る前に本を読むと、亭主が眠れないと文句いうのよ」
「それで?」
「部屋なんていくらでもあるでしょ。好きな所で寝なさい! と言ってやったわ」
「そうしたら」
「出てったきり帰ってこないのよ」
「気軽に本読めて良いじゃないですか」
「アンタバカだね。それじゃあ寂しいでしょ」
「だれが?」
「亭主に決まってるでしょ」
「帰ってきてねと言えば直ぐに解決。私忙しいんですよ」
「相談者ぜんぜん居ないみたいだけどねぇ」

ドイツもコイツも余計なお世話だ、キズつくな〜、まったく。困った人を救いたいから人生相談を始めたのに、真面目な相談は一件もない。どこの誰もがズレている。どなたか相談にのってくれないかなぁ。ワッシュライドゥ?
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2023年09月02日

君は既に別れている

七つ下の職場の後輩である定年男性から相談を受けた。人生相談は大好きなので張り切って対応した。
「君は一番よい選択をしましたね。私に相談すれば問題は速やかに解決されるでしょう」
「退職して二人暮らしを始めて女房の正体が分かったのです。もう別れたいですね」
「心配いりません。君は既に別れています」
「はぁ?」

「生まれてから現在に至るまでズ〜ッと別れているじゃあないですか。今更法律的に別れる必要などありません」
「家庭内別居を勧めるんですか?」
「別居はお金がかかりますよ。あるんですか」
「う〜ん? 家の中を二つに分けるとか」
「バカなことは止めてください。小さな家を半分にしてどうするんですか。不便になるだけですよっ」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」

「今のままでいいのです」
「それが最悪だから、相談に来たんです。もう帰ります。来るんじゃなかった」
「ちょっと待った! 問題を解決したいのなら最後まで聞きなさい。短気は損気ですよ」
「いいですよ。最初から期待していなかったんですから。ダメでもともとです。拝聴しましょ」

「奥さんは買物、サークルなど、よく外出しますね。その間君は一人でしょ。君が外出すれば君は一人。書斎にこもれば君は一人。寝ているときも君は一人でしょ。まさか一緒に寝たりしていないでしょうね?」
「いえいえ、とんでもない!」
「しっかりと別れているじゃあないですか。それ以上別れたって、自分の生活が不便になるだけですよ」

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「何だか、はぐらかされているみたいですね」
「君が私を騙しているのですよ」
「はぁ?」
「奥さんと仲良くしたいのに、なついてくれないものだから、別れたいとか言っちゃって」
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2023年07月22日

ある夜に見た夢

よく夢を見るが大抵は目が覚めると忘れてしまう。しかし、この夢だけは私の性格を反映しているような気がしてハッキリと覚えていた。自分は惚れっぽくて従順、慎重で間抜けと思っているが、自己評価だから甘いかも知れない。

夢とは「脳内に溜まった過去の記憶や直近の記憶が結びつき、それらが睡眠時に処理され、ストーリーとなって映像化したもの」だそうだ。しかし、私の見た夢はバラバラで一貫性もなく物語とは思えない。

だけど、とても興味深いシーンがいくつかあったのでで、自分なりの夢物語を書いてみた。筋が繋がらない部分も多いが、私の見る夢は何時だってそうなのだ。

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なぜか憧れのAさんの部屋に入った。普通は女性一人の部屋に入れてもらえないから、それなりの事情があったのだと思う。しばらくすると、だんだんいいムードになって来た。

「いいわよ、その代わり靴を外に出してちょうだい」とAさんは言った。来客中につき入室禁止の意味かなと、いいように解釈して履いてきたイタリア製の高級靴を廊下に出した。
「そこじゃダメ。もっと遠くに出して」と言われても何のことか分からない。それでも一生懸命どこに出すか考えた。この部屋は、大きな邸宅の3階にある。
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常識的には玄関だなと思い、1階に降りた。しかし、こんな所に置いたら家の人に、来たことがバレてしまうと心配になった。あれこれ考えた末、手提げ袋に靴を入れ、バス停のある道路にまで来てしまった。さて、どうしよう?

ここなら家の人に見つかる心配はない。ここに置こうと決めたのはいいのだが、泥棒に盗られたらどうしようと、心配になった。とりあえず、靴の入った手提げ袋をバス停裏に置き、様子を見ることにした。懸念したとおり、通りがかりの紳士が手提げ袋を手に取り悠然と歩き出した。

「あの〜、ちょっと! それは私の靴ですが」
「そうですか。警察に届けに行くところですが、お返ししましょう。あなたのものであることを証明して下さい」
「見ての通りサンダル履きです」
「それは証明になりません。免許証をお持ちでしょ」

免許証はAさんの部屋で脱いだ上着のポケットに入っている。見ず知らずの人をAさんの部屋に連れて行って、あれこれしていたら、Aさんとの楽しいひと時を失ってしまう。

これでは何の為に靴を出しに行ったのか分からない。かような次第で高価な靴は取られてしまった。ともかく靴は出したのだ。いそいそと部屋に帰りAさんに報告した。

「靴だしました。うんと遠くにですよ」
「遠くでなくても良かったのに、お疲れ様。その靴を履いて帰ってもいいわよ」
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2022年09月24日

女性が羨ましい

昔、近所の病院に入院したが、患者どうしは仲良くやっていた。しかし、一人になりたいと思うこともある。そんな時は休養室に行って雑文の下書きをしたりしていた。コッコッと足音がするので反射的に顔を向けると目があってしまった。思わず、ニッコリ笑い挨拶を交わした。これがキッカケで年配の女性の愚痴を聞くはめになった。

「私、何の為に一人でガンバッテきたのでしょうね」
彼女は定年まで働いて、その後は新築のマンションを買って一人暮らし。夫は64歳の若さで亡くなったと言う。
「主人は貴方に似て前ハゲなの。何だか懐かしいのよ」
「そうですか」
軽く聞き流すふりをしたが凄く嬉しい。
「この歳で初めて入院したの。上と下が悪くてね」
「上と下ですか?」
「吐き気と下痢よ。こんなにやせちゃった」
「お若いのに大変ですね」

「甥に篠路の老人ホームみたいな所に連れて行かれたの」
「一緒に歩いていた方ですね。お子さんかと思いました」
「子供はいないし、迷惑かけられないから入らなければね」
「まだ若いから気が進まないでしょう」
「今まで一人で頑張って来たからね」
「ホームでのんびり暮らすのもいいかも知れません」
「寂しいよね」
「寂しいですね」
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「何か書いていたのでしょ。邪魔して悪かったね」
「いいんですよ。暇つぶしですから」
「話したら、なんだか気が晴れたわ。ありがとね」
「それは良かったですね。叉、話しましょう」
これでお別れと思ったが… … 
「あらっ! なに書いてるの。ちょっと見せてよ」
「嫌ですよ! 日記ですから」

親切な女性には敵わない。断ったのに、近寄ってのぞいた。
「なんかよく分からないねぇ」
「字が下手ですからね。ワードを使って書き直します」
「この字違っているよ。直してあげる」
「いいですよ。後でワードが直してくれるから」
「ワダさん?」

タイミングよく、休養室に年配の女性が入って来た。
「お友達みたいですよ」
「入院したばかりで、話し相手がいなくて寂しいんだって」
「そうですか」
「話し終わると、話してくれてありがと。とお礼を言うの」
と、言うが早いか私を置いて、お喋りに行ってしまった。

二人の女性は昨日会ったばかりというのに、まるで10年来の親友のようだった。こんなこともあって、書く気もなくしたので、病室に帰り隣のベッドの人に声をかけた。
「女性は素直に自分の気持を言えるから羨ましいですね」
「あんたもそうすればいいじゃないか」
「話し相手がいないから寂しいの、なんて言えませんよ」
「もっと気軽に、調子はどうかいとか言ってみな」
「調子はみんな悪いんですよ」
「みんな?」
「病人ですからね」

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2022年01月22日

浅知恵

世の中は思い通りには行かないものだ。一生懸命調べて考えたのに、悪知恵と一蹴されてしまった。

定年退職して家でブラブラしていた頃、ある新聞記事が目を引いた。見出しはこうだ、「妻が怖くて退職言えず…」「生活費稼ぎの為ひったくり」。当時は妻と二人暮らしで、何かと虐げられていた。他人事ではなく身につまされる記事だった。私だって妻が怖いから働いているフリをしたい。

ならば、給料をもらっているフリもしなければならない。幸い私にはへそくりがある。新聞記事の男みたいに「生活費稼ぎの為ひったくり」などをする必要はない。使いきったら失業したと言えば済むことだ。何よりも「仕事しています」と言う雰囲気を出すことが肝心だ。

先ずは就業規則だ。勤務時間は10時から16時、週休三日制、年次休暇は50日。こんなものでどうだろう? これで規則に基づいて働いている感じが出てくると思う。役職は課長ぐらいにしようかな。時には上司に言われて仕方なく、と言えるような歯止めも肝心だ。何から何まで自由では「働いている感」が滲み出てこない。

名刺は業者に頼む、パソコンで作ったような名刺では課長の貫禄が出てこない。給料明細書はパソコンで作れる。幸い私はプリンタを持っていない。妻はネットプリントでコンビニで出力とは夢にも思わないだろう。ネットでもらった暗証番号をコンビニの多用途プリンタに打ち込めば、20円で明細書が印刷される。経費としては安いものだ。

大切なのはオフィスだ。これがなくては折角用意した課長の椅子の置き場がない。実は耳寄りな話があった。ある人が事務所に借りたワンフロアの半分を自分が使用して、残りを又貸している。6脚の事務机があって、事務机1脚分の場所を月9500円で貸してくれる。電話の取次ぎもしてくれるし、郵便物なども各机ごとに振り分けてくれる。しかも、一階が喫茶になっているので、お客様の応接も出来るのだ。

これなら名刺に固定電話の番号も入れられるし、住所も世間に知られた伝統あるビル名を使える。勤め先オフィスとして、充分機能するのではないか。長年連れ添った妻を騙すには最低限、この程度の準備は必要だ。

新聞記事の男は、妻が怖くて退職したことを言えなかった。その気持ちは分かるが、何の準備もしないで働いているフリはまずかった。それが「生活費稼ぎのためにひったくり」に繋がったのかも知れない。配慮が足りなかったと思う。

「友人の友人が机を一つ借りていて、趣味のサークル活動の事務局として使っているそうです」
「何を考えているのか知らんが、働きたいのなら真面目に働け。働いているフリなどとんでもない!」
「友人の友人が4月の(本職)移動で地方に転出するそうです。そこを借りられればオフィスの問題も一 挙に解決して、憧れの『仕事』ができるのです。楽しみですね」
「アンタは人の言うこと、何も聞いてないね」
「奥さんが怖くてひったくりなんて可哀想ですよ」
「俺は悪知恵が働くお前より、ひったくり男が好きだな」
「そうですね。私もです」
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2022年01月08日

やめましょう

1月4日に4回目の検査を受けたが、結果は変わらないので専門家の判断に委ねることになった。現在の状況は癌転移の観察を続けるか、手術をするか二つに一つ。結果は近日中に出る予定。ブラブラしているのも勿体ないので、少しでも病状回復の為、私に出来ることはないか聞いてみた。

先生は「普段通り生活していて結構です。癌を早く見つけて直ぐに手術することが第一です」と言った。しかし、私が普段通りに出来ることは食べて寝る事。そして20年近く続けていて、習慣になっている公園散歩と、ブログやホームページの更新だけ。他のことにはなかなか手が付けられない。

一年の計は元旦にあるというけれど、元旦は何となく過ぎてしまった。新年の抱負は書き損なったので、似たようなものを書くことにした。一応、現在の気持ちを素直に書いたつもりだが、これで良かっただろうかと自問している。

気分転換に独りよがりの老人会を考えてみた。世の中は金と才能のある人に支配されている。そして、彼等が自分の基準で才能ある人を選んでいる。何とかしてこの基準を変えたい。もし無能な人が世の中を支配すれば変えられる。良し悪しは別として変わる。怖い感じもするけどね。

新基準が出来れば、音痴の人にレコード大賞(の様なもの)を与えることが出来る。悪文の人に芥川賞(の様なもの)も与えることが出来る。不可能なことも可能となるのだ。なぜ、老人会かと言うと、自分が無能と見極めるには永い年月が必要だからだ。私は50年もかかった。

それに、老人だから末永く吹きだまってもらえる。若者だったら進歩して去ってしまう。だから、才能がなくても認められたい老人には、今と違う基準が必要だ。無能な老人は団結して新しい基準を作るべきである。世の中は1%の天才と9%との怠け者と90%の真面目だが報われない人で構成されている。民主主義国なら多数決が機能するはずだ。

試みに、無能老人会の決まりを作ってみた。
1.入会資格
  しょうがない人、一度も賞をもらえなかった人
2.対象作品
  意見、川柳、絵、写真、その他メールで送れるもの
3.表彰の決まり
   種 類:むいみで賞、むなしいで賞、やめま賞
   審査員:当分の間ボク

「なんだ、これが新年の抱負か。ふざけるな!」
「抱負のようなものです」
「意味がないだろう」
「むいみで賞、もありますよ」
「バカバカしい」
「笑って暮らしましょう」
「むなしいねぇ」
「そうですね、やめま賞」
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2021年08月21日

消えた鯉10--私の夢

フィクションとは、一般には「事実でないことを事実らしく作り上げること」 。作り話も、その一つだ。ところで、事実だけに拘ると真実を語れないことがある。

例えば、SP市N公園S池に鯉が初めて放されたのは明治23年(1890年)。それから116年たった2006年の春、池の中の鯉が一匹残らず消えていた。にも拘わらず、当局の発表もマスコミ報道もなかった。

だが私は鯉全滅の一部始終を知っているつもり。しかし、事実とは証明できないので「作り話」として書いた。カテゴリ:フィクションをクリックすると10話まとめて表示される。見たこと聞いたことの隙間は空想で埋めた。

ところで、ここから先は実名表記で書くことにした。事実だけを書くのでフィクションにする必要がなくなった。と言っても私が見た事実であり、思い込みも含まれている。

消えた鯉を再び見たのは、全滅以来2年半ぶりの2008年6月だった。豊平館前の池、西側で約10匹の鯉を見た。
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鯉の全滅は突然だが、現れたのも予告なしだった。

半月ぐらいは、ほぼ同じ場所に居た。その後アチコチで見られるようにになったが、豊平館前の池、西端に居ることが多かった。日本庭園でも見かけたが、菖蒲池ではたまに見られる程度だった。池が大きいので遠くが見えない事情もある。

このような傾向は去年まで続いたが、今年はかなり変わった。菖蒲池で見ることが多くなったのだ。その分、豊平館前で見る機会は少なくなった。次の2枚は菖蒲池で撮影。
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2005年までの鯉は菖蒲池の底で越冬していた。豊平館前の池は水深が浅く越冬できないと思う。全面的に干上がることが、よくあった。動物の生態など殆ど知らないが、この池で鯉が越冬できないことは、池の底を見て分かった。
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2008年以降、一番多く鯉が見られるのがここだった。

ところで、すすきの鯉放流場のことだが、毎冬、鯉を養鯉業者に預けていた。費用も掛かるので、鯉を越冬させるため川の中央を掘り下げる工事をした。
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以後、すすきの鯉放流所の鯉は越冬している。越冬のためには、ある程度の水深が必要なことが分かった。

浅はかな考えだが、今の鯉はいつの間にか2005年以前のように菖蒲池の深い所で越冬するようになったと思う。越冬中は何も食べていないので、池が融けて水温が上がると、鯉はエサを求めて泳ぎまわる。そして行き着いたのが豊平館前の池。ここは行き止まりで、しかもエサがある。濁っていてゴミだらけだから、なんとなくそう考えたのだ。
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鯉は10年以上もエサを求めて池の中を泳いでいる内に、エサはいろいろな場所にあることを学習した。そして、あちらこちらに行くようになったのだと思う。

鯉が2006年の春に全滅したのも事実、2008年6月に再び姿を現したのも事実である。しかし、数が少なくて生息し続けるか心配だ。私の夢は菖蒲池で越冬した鯉が春には産卵をして命をつなぐこと。このような、自然の営みが中島公園で行われれば、素晴らしいと思う。
posted by 中波三郎 at 00:00| Comment(0) | フィクション